07年の供給開始以降、チームは34回の優勝を記録。同社がこのF1参戦で得たものは大きい。
「ユーザー(ドライバー)の生の声を聞ける機会はほかにそうない」。F1向けなど高性能ブレーキ開発を担当するVCETプロジェクトのスペシャリストはレース用品開発の意義を説明する。「ブレーキを離した時に速く戻るのか、じんわり戻るほうがいいのか」。一流ドライバーの感覚と向き合う。
現場へは20代後半―30代の若手エンジニアを連れて行く。「若手にこだわりを身に付けてもらう。たった0・1グラムの軽量化でも、この形状を工夫すればできると考える。そうした目を持たないと予想を超える軽量化はできない」
「乗用車向けは得意先がスペックを決めるが、レースに教科書はない」と話す。スペックも達成方法も評価方法も自分たちで決める。この一連のサイクルを回すことは技術者にとって貴重な経験になる。VCETでレース用開発を経験した技術者が乗用車向けの開発に移り、活躍する例も増えている。
同社は今後、F1に供給するブレーキキャリパーの冷却機能を高く、軽く進化させる計画だ。時速300キロメートルにもなるF1ではブレーキにかかる熱が一般の乗用車とはまるで違う。ブレーキは高温になりすぎると機能を発揮できない。穴を持つ構造にし、風の通り道をつくる必要がある。コンピューター解析で、理想形状を追求する。「若い人には個性を持ったアイデアを出せるエンジニアを目指してほしい」と次世代に思いをはせる。